2013年1月31日木曜日

ブラウン オーラルB 電動歯ブラシ デンタプライド5000

オムロン、パナソニックに続き、私自身3機種目の電動歯ブラシ。前機種がついに起動しなくなったので購入を決めた。読者の参考のため、前機種と比較しつつ、淡々と感想を記したい。

電動歯ブラシ業界は、世界ではブラウンとフィリップスの2強状態だが、日本だとパナソニックが巧みなマーケティングにより首位を保っている。

結論から言えば、これら3ブランドのうち、海外に行かない人なら迷わずブラウンが買いだ。海外旅行時に携帯したい人は悩むが、歯垢除去性能からすればフィリップス、日本でのランニングコストからすればパナソニックというところか。裏技として、AC100-240Vの全世界対応であった時代のブラウンの型落ち品を買うという手もある。私が購入したのも、2012年発売の最新機種(D345355X)でなく、2007年発売の型落ち品(D325365X)であった。

それぞれのブランドの特徴は次の通りだ。
  • Doltz(パナソニック)
    • リニアモーターによる小刻みな往復振動。
    • 換えブラシは(日本では)入手しやすい。最安で1本400円弱くらい。
    • 最新機種の充電器はAC100-240Vの全世界対応。
  • Sonicare(フィリップス)
    • 音波水流を発生させる高速往復振動。
    • 換えブラシは最安で1000円程度。
    • 最新機種の充電器はAC100-240Vの全世界対応。
  • Oral B(ブラウン)
    • 回転的往復振動
    • 換えブラシは最安で1本500円程度。
    • 前機種まではAC100-240Vの全世界対応だったが、2012年の最新機種から、充電器が日本国内のみ対応のAC100Vとなってしまった。
パナソニックのDoltzと、オムロンの旧機種に比べると、Oral Bは振動が非常に大きく最初は面食らったのだが、歯垢の除去能力は圧倒的に優れている印象だ。すばらしいのは、ある程度適当に歯ブラシを動かしていても、丸い形状のブラシが歯の上面はもちろん側面にも回りこんできれいにしてくれるという点だ。パナソニックの場合、鏡を見て丁寧に歯に当てなければ歯垢を取りきれない。(上下左右4通り)×(内側・かみ合わせ面・外側の3通り)の12箇所を意識して磨かないときれいにならない感じで、これだと必要な集中力が手磨きと大差なく、電動歯ブラシの意味があまりない。しかしブラウンだと、(上下左右4通り)×(内側外側2通り)の8箇所でいい、という感じであり、手間としては本当に3割以上減という実感がある。ネットを見ながら歯磨き、のような適当なやり方でも問題なくきれいにできるので、パナソニックとオムロンの比較では、圧倒的にブラウンがお勧めだ。

なお、回転式、と言っても実際にはぐるぐる回るのではなくて、狭い角度で往復的に動いているだけである。私の使い方では、歯茎への負荷は、振動式と大差はないというのが実感である。

店頭機種を触ったりして調べた印象では、Doltzは、フィリップスの劣化版という感じで、どうも振動があまり有効に歯垢を落とすためにできていない。私の経験からしても、Doltzでツルツルの歯を実現するのは集中力を要した。気を許すと、特に利き手側の歯の内側のツメが甘くなるのである。フィリップスは触った感じでもいかにも音波水流が巻き起こりそうで、歯科医の推薦度が高いというのもうなづける。つくりからして振動も少なくて、総合的な性能ではおそらくこういう感じだろう。
ブラウン ≒ フィリップス >> パナソニック、オムロン
ということで、歯の健康のためにはフィリップスとブラウンの2択と思われる。ブラウンは「ながら磨き」でもうまくいくし、何よりランニングコストが安いので、あの多大なる振動さえ気にならなければ、一般人にとっては現時点での最善の選択となろう。

ただ、非常に残念なことに、2012年の機種からブラウンはAC100Vのみの対応になってしまった。時差や移動で疲れる海外出張では、歯を清潔にしたいものである(海外フライトでは食後必ず歯磨きをする、というのは重要なTipsのひとつだと思う)。1日2回で10日持つ、ということになっているのだが、たとえば一家4人で使ったとしたら3日も持たない。充電器持参は必須だ。この点、是非改善してもらいたいものだ。

余談だが、Oral Bの回転ブラシのギミックは男の子のハートをつかむ何かがあるようで、子供が喜んで電動歯ブラシを使って磨くようになった。現時点ではとても満足している。


ブラウン オーラルB 電動歯ブラシ デンタプライド5000 D325365X
  • メーカー型番:D325365X 
  • サイズ:幅34×奥行54×高さ240mm 
  • 本体重量:173g 
  • 素材・材質:ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル)、ポリプロピレン 
  • 原産国:ドイツ 
  • 付属ブラシ:3本(プラークワイパー付フロスアクションブラシ(EB25)1本、ステインケアブラシ(EB18)1本、舌フレッシュナー(TF1)1本) 
  • 付属品:スマートガイド(単三乾電池2本付属)、トラベルケース、ブラシ収納ケース 
  • 充電時間:10時間 
  • 充電持続期間:10日間(1日2回、各2分使用) 
  • 電源方式:充電式/AC100-240V 50/60Hz 2.4W 
  • 最大振動数:上下振動:約40,000回/分、左右反転:約8,800回/分

2013年1月4日金曜日

Jugaad Innovation: Think Frugal, Be Flexible, Generate Breakthrough Growth

インドや中国といった新興国市場での最新の成功事例を元に、イノベーションのための新しいアプローチについて論じた本。書名のJugaadというのは「ジュガード」と読み、英語だとDo-it-yourself 、中国語だと自主創新にあたるらしい。日本語だと創意工夫精神、くらいか。

イノベーションのやり方に変革が必要であると主張する著者らの主たる根拠は、世界の経済の中心が新興国市場にシフトしつつあるということだ。The West、すなわち西欧の先進国では、これまで大きな研究開発部門を持つ会社でシステマティックに新技術を生み出すというやり方が主流であった。しかし新興国市場ではそういうやり方はうまくいかないだろうと著者らは説く。

著者らによれば新興国市場の特徴は次の5つの言葉でまとめられる。

  • scarcity
    資源はますます欠乏してゆく。これまでのような大量消費型のモデルはうまくいかない
  • diversity
    インドや中国では地域ごとの多様性が高い。アメリカのような一様な消費社会は前提にできない
  • interconnectivity
    新興国では携帯電話に代表される新しいIT機器への渇望が強く、そのようなメディアを使った口コミが急速に進展する
  • velocity
    製品のライフサイクルはますます短くなる
  • breakneck globalization
    経済の重心は急速に米国からアジアに移動する
このような背景を共有した後、著者らは次のように述べる。
It is clear that the West must build a new innovation engine that allows it to innovate faster, better, and cheaper. To do so, Western firms must find new sources of inspiration. (p.17)
歯切れよい宣言である。そしてその実行に向けて、著者はJugaadの6原則というのを次のように列挙する。
  • Seek opportunity in adversity
    製品の想定が市場に合わないことがわかったら、それを新たな機会と捉える
  • Do more with less
    新興国では巨大インフラや、高価な設備を前提しない新しいモデルを想定する方がいい
  • Think and act flexibly
    従来型のモデルに合わない状況が出てきても、むしろ自分をそこにあわせるよう柔軟に考える
  • Keep it simple
    コテコテを機能を盛り込もうとするエンジニア的発想ではなくて、市場が本質的に求めている機能に絞る
  • Include the margin
    いわゆるLong-tailの部分など、従来はマイナーなセグメントだと思われていた市場に着目する。
  • Follow your heart
    研究室にこもっていないで市場の声に耳を傾ける。

そしてこれらは、オーケストラではなくてまるでジャズのように、同時多発的・即興的なやり方でクイックに作られ、試されなければならない。Chapter 2以降、これらのそれぞれについて、豊富な成功事例を元に、我々がどうすべきかの示唆を与える。

本書で紹介されるそれぞれの事例は非常に興味深い。たとえば、いまや世界最大の家電メーカーとなったハイアールの例では、中国において頻発する洗濯機の故障を分析して、農村部では洗濯機を使って野菜を洗うユーザーが多いことを見出す。通常の企業だと「それは仕様外」と言うことになろうが、ハイアールは、排水パイプを極太にするなどの改良を重ねて、野菜も洗える洗濯機、という新製品を発売する。それはまさに創意工夫の勝利であり、新興国市場の状況を象徴的に表す。

ただ、その事例にしても、「うまくいったから正しい」という後付けの理由に過ぎないようにも見える。たとえば、顧客の声に耳を傾ける、というのは聞こえはよいが、そうしたからと言って常にうまくいくわけではない。有名な反例が「ハンドルつきのLet's note」だ。

著者らは、従来のシステマティックな、Six Sigma流のアプローチでは新しいイノベーションは生まれないと説く。3Mにおいて、そのようなアプローチがいかに業績を沈滞させたかがChap 2において詳しく解説される。イノベーションと、システマティックな改善活動との間の緊張関係は、Innovator's Dilemma でも論じられたようによく知られており、実際には、破壊的イノベーションは常に従来の枠組みから外れたところで現れる。AS-ISのあり方を前提に、それを改善し精度を上げるというアプローチとはある意味で逆である。この意味で、異質な環境が新しい思考を要求する新興国市場は、イノベーションの格好の揺り篭になりえるという著者らの直感は正しい。

ただ、豊富な事例を挙げれば挙げるほど、著者らのロジックはやはりアドホックに聞こえがちである。Jugaadをビジネスにおいてどう実践するか。この問いに答えるために、Chap 8ではGEにおける事例が詳しく紹介される。GEは、インドを中心にして、ヘルスケアビジネスで大きな成功を収めている。その要因は、現地の事情に即したモデルをいち早く構築したことにある。たとえば、ポジトロン断層法とかCTスキャナ、あるいは超音波診断装置はインドでは高価すぎてマーケットが広がらない。そこで、GEのエンジニアは超小型の心電図測定装置や、携帯型の超音波診断装置を開発した。また、現地企業と協業してポジトロン断層法で必要な放射性同位元素を現地調達できる仕組みを調達した。しかし、確かにそれはインドで成功したという意味ではJugaadな性質を持っていたともいえるのだろうが、装置の小型化は通常のシステマティックなR&Dの枠内とも言える。著者らの主張は必ずしも明確ではない。

著者らの、CEOに向けたメッセージはこのようなものだ。
  • トップダウンよりボトムアップなイノベーションに注目せよ
  • 社内にもあるはずのJugaadを顕彰せよ
  • 現在のR&Dモデルが恐竜化していることに危機感を喚起せよ
  • 発明を事業化するスピードに注意を払え
  • ソーシャルメディアを活用せよ
それぞれに反対する理由はないのだが、それを具体的にどうするかはやはりよくわからないのである。

本書は、新興国における豊富なケーススタディを要領よくまとめており、米国のビジネスのコミュニティでの新興国に向ける熱い視線がよくわかる。しかし新イノベーション論として読むためには考察が浅いと感じざるを得ない。繰り返しになるが、新興国において成功した事例にJugaad的特徴があることはわかるが、論理的には、それは必要条件を言っているだけであり、十分条件ではない。結局、Jugaadなアプローチを従来型R&Dと相補的に使うことでスピードとスケーラビリティの両方を実現できる、というような結論になるのだが、冒頭で力強く述べられたリソースの欠乏とビジネス的スケーラビリティとの関係など、わからないことが多い。

悪く言えば、米国的大量消費モデルを国外に拡張して、これまでのような経済的繁栄を謳歌しようという、米国的強欲が透けて見えると言えなくもない。素直に取れば、真のJugaadとは、massとして成長しないことを前提にした新たな世界観とともにあるべきではないのか。本書においては悲しいほど無視されているわが日本であるが、そこには日本人的なセンスが必要になると信じたい。


Jugaad Innovation: Think Frugal, Be Flexible, Generate Breakthrough Growth
  • Kevin Roberts (はしがき), Navi Radjou (著), Jaideep Prabhu (著), Simone Ahuja (著) 
  • ハードカバー: 288ページ 
  • 出版社: Jossey-Bass; 1版 (2012/4/10) 
  • 言語 英語, 
  • ISBN-10: 1118249747 ISBN-13: 978-1118249741 
  • 発売日: 2012/4/10 
  • 商品の寸法: 16.2 x 2.6 x 23.7 cm

2013年1月2日水曜日

「V字回復の経営 ― 2年で会社を変えられますか」

業績不振に陥った会社を立て直すべく、子会社から呼び戻された男を描く奮闘記。著者三枝匡氏は、MBAのはしりのような人で、ボストンコンサルティングのコンサルタントとして名を馳せ、実際に経営者としても、ミスミグループの経営をV字回復させた業績で知られている、らしい。

小説風に書かれているが、これは著者が「過去に関わった日本企業五社で実際に行われた事業改革を題材にしている」とのことである。後述のとおり、作品としては残念な点が多いが、ある程度現実に即したストーリーであるため、組織改革・企業変革の要諦を解説する書としてはそれなりに価値がある。

ストーリーの方はこんな感じだ。業績不振に悩むある製造業企業の社長・香川は、子会社の社長となっていた黒岩を改革のために呼び寄せる。黒岩は旧知の経営コンサルタント五十嵐を雇い、改革のためのタスクフォースを立ち上げる。精力的な社内ヒアリングの後、これはと思う人材をタスクフォースのメンバーに引き抜く。実務面で中心となるのは、開発と製造に広い業務知識を持ち、米国子会社の社長の経験もある川端という男である。困惑気味のブレインストーミングから始めて、五十嵐の適切な示唆の下、タスクフォースは不振事業の改革案をまとめる。それは今ある管理職ポストの多くをなくすドラスティックなものであったが、香川社長の100%のバックアップの下、タスクフォースは計画通りの変革を断行する。その結果、会社は文字通りのV字回復を果たす。

黒岩と五十嵐は、タスクフォースのメンバーに、現在の組織の問題点を自由に列挙するように指示する。そうしてそれらを除去するためにどうすればよいか問う。立ちすくむメンバーに、五十嵐は7つのヒントを与える。
  • 事業全体の「事業戦略」を明確に示せば解決できる問題点
  • 個々の「商品戦略」を明確に示せば解決できる問題点
  • 「人の評価」のシステムを変えれば解決できる問題点
  • 「数値管理」つまり経営報告や原価計算などの手法をよくすれば解決できる問題点
  • 「情報システム」を変えれば解決できる問題点
  • 「教育・トレーニング」のプログラムを充実すれば解決できる問題点
  • 各部署の固有問題として、それぞれの内部で解決改善に取り組むべき問題点
壁いっぱいにPost-itで貼られた問題点を、この7つに分けて分類することで、タスクフォースは業務改革の方向性を悟る。本書内でも明記されている通り、実現されるべきモデルについての主要なメッセージは、組織の全体最適化・一気通貫化である。著者はこれを、社内の部署間における5つの連鎖という言葉でまとめている。
  • 価値連鎖
    ある部署の業務が、後工程に対してどういう価値を付加するのかを明確化する。付加価値が明確でない部署は存在の是非含め検討する
  • 時間連鎖
    ビジネスの(製造業であれば開発、製造、販売という)サイクルにおいてそれぞれの部署が使っている時間を可視化する。サイクルのバランスを崩している工程があれば部署の存在の是非含め検討する
  • 戦略連鎖
    全社の戦略的経営目標を全部署で共有する。抽象的レベルではなくて、個々の部署の文脈で具体的にどう貢献するのかを全員に周知徹底する
  • マインド連鎖
    競合他社との競争に勝ち抜くという思いを、各組織で共有する。抽象的レベルではなくて、個々の部署の文脈で具体的に、その勝負にどう貢献するのかを全員に周知徹底する
  • 情報連鎖
    上記の情報のやり取りを、通常の業務として無理なく可能にするために、情報技術(IT)に基づくインフラを構築する。

これ自体は非常にうなづけるところだが、明らかに冗長である。本質的には、ビジネスの基本そのものである価値連鎖と、風土改善である戦略連鎖の2つしかなく、それらを具体的に可能とする手段として、「情報連鎖」すなわちITインフラがあるということになろう。

この冗長さ(あるいは暑苦しさ)は本書に非常に特徴的である。先に挙げた7つのヒントにしてもいかにも冗長で、このほかにも、「改革の9つのステップ」とか、ダメ組織の「症状50」とか、「改革の要諦50」とか、作中の見せ場となっている黒岩らの社長に向けた改革プランのプレゼンテーションにおいても「10の問題点」とか、何から何まで、空を仰ぎたくなるほど冗長である。これは最近のコンサルタントの手際よいスタイルとは似ていない。実地で使ったのと同じプレゼンテーション資料を再現した図も、いわゆるピラミッド原則を無視した古色蒼然としたものだ。このことを好意的に見れば、著者は、他人が作った「理論」をそのまま横流しするタイプではなく、自分の頭で考え、そしてそれを人に伝え、人を動かすことのできるタイプなのだと思う。人を動かすには情熱が必要である。わざわざマインド連鎖などというやや気恥ずかしい言葉を挙げているのは、それなりの思いがあってのことだろう。

作中でも中心人物のひとり川端に次のように語らせている。
私はアメリカで社長をしていた頃、営業でよくシリコンバレーのベンチャー企業を訪ねました。
米国人経営者はみんな一生懸命でした。夜中まで夢中で仕事をして...彼らの熱気を見て、私は脅威に思いましたよ。米国人がこれだけ働けば、日本も危ないのじゃないかと...。
そして4年前に日本に帰ってきたときに私は強烈な違和感を感じました。
昔の日本企業と違って、アスター事業部のオフィスは夕刻六時を過ぎたらガラガラで寂しくなるんです。お役所が定時に就業するみたい(笑)。
日本でも、皆の気持ちが燃えていれば、早く帰れと言っても、皆は夢中で仕事をするはずです。
そういうガンバリズムが古いなんていうのは絶対に間違いです。
米国のベンチャーなんか、ガンバリズムの塊ですから。朝食のミーティングから始まって、夜中まで。週末には家に仕事を持って帰るし...。
これは正しい指摘である。一方で食うか食われるかのぎりぎりのところで勝負している人間がいる時に、他方で定時に帰る楽な仕事ぶりでは勝負になるはずはない。日本のマスメディアの流す情報と異なり、公私混同とすら言える長時間労働、学歴(肩書き)主義は、米国エリートの通常の行動様式である。言うまでもないことだが、国際競争のない非国際的規制業種の代表であるマスメディアが垂れ流す海外情報のほとんどは、自己の願望を反映した不正確なものが多い。競争相手のプレッシャーの下、現状を突破して新しい地点に出るには、命を削るくらいの猛然とした頑張りが必要である。当たり前のことだ。

小説風改革指南書である本書においては、著者は、黒岩と五十嵐の一人二役を演じているという趣なのだろう。ただ、五十嵐の登場の仕方といい、泰然として100%のサポートを改革チームに与えつづける香川社長といい、どうも取ってつけたような感が否めない。小説風の地の文に、急に上記のようなインタビュー記事?が挿入されるスタイルも違和感を通り越して身勝手さを感じさせる。ストーリーとしてここまでリアリティに欠けてしまっては集中力を保つのは難しい。絶賛だらけのAmazonの書評は不可解としか言いようがなく、実際、私も酷評する前提でこれを書き始めたのだが、その過程で本書を読み返してみると、おそらくは著者の人柄から出るまっすぐさのためか、最終的には全体として好意的な文章となってしまった。なるほど、人を動かす人というのは、こういう人なのかもしれない。

一見馬鹿馬鹿しいが、得るものも大きい不思議な本。


  V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)
  • 三枝 匡 (著) 
  • 文庫: 458ページ 
  • 出版社: 日本経済新聞社 (2006/04) 
  • ISBN-10: 4532193427 ISBN-13: 978-4532193423 
  • 発売日: 2006/04 
  • 商品の寸法: 15 x 10.7 x 1.9 cm